釣れた時の印象は、明るい赤色が印象的な個体。もちろん全体が赤いわけではなく、甲の辺りがコウイカ にしては明るい赤で脇の辺りが白いというか透明感のある色。
コウイカ類は大抵、茶色。縞模様がはっきりしていたり、紋甲イカのようにキスマークがあったり。そういった模様は甲側全体に入っている。もちろんこの個体も茶系だが、かなり薄くして明るい印象。そして脇のあたりの透明感が印象的。模様はなかったように思う。じっくりマジマジと眺めたわけではないし、記憶に残らなかっただけかもしれない。
釣り上げたときの印象は薄い色の個体というぐらい。そういうのもいるんだなと思っただけだった。
その前の週にもコウイカが同じように上がっていて、また釣れたとしか感じなかった。そちらは濃い茶色で横縞の強い、これまで何度も釣ってきた、よく見るコウイカ 。それとは明らかに違う感じなのだが、棲む環境や個性の違いによる程度のものだろうと気にも止めなかった。
さて、何故わざわざ、番外編に書いているのかというと、そのきっかけは帰宅後に捌いているとあることに気がついたからである。
めちゃくちゃ長くて細い足が一対ある。なんだこれは。触腕にしてはおかしい。恐ろしく長く、驚くほどに細い。先端部が細いままで何かを掴む機能があるようには見えない。触腕ではないと確信して別にあるはずの触腕を求めてポケットの辺りを調べると、案の定仕舞われたままの触腕を発見。こちらは見るからに普通に触腕。では普通のコウイカにはない、この一対の細くて触腕より長い足はなんなのか。
そして甲が細長い。こんな細長い甲も初めて見た。
幼若体の特徴のようなものだろうか。所有している文献を紐解いてみるがそんなことは書いてない。
ネットで探すが長い足では触腕の話しかヒットしない。それでも検索ワードを変えながら探していると「山陰沖日本海における頭足類相」という結構なボリュームのある論文にたどり着く(20ページまでしか表示されないが、本来は続きがあるはず)。
この論文によると、どうやらウスベニコウイカ という種らしい。長細い足、赤い色、細い甲、全て当てはまる。この論文によればサイズも最大25cm程度で、20cmに満たないくらいの今回の個体は範囲内。
気になる点は「分布 ― 東京湾以南,東シナ海域。山陰海岸以南の日本海沿岸にも分布し(山陰沖では初記録),山陰沖 では水深 180 ~ 300 m の海底から底曳網によって混獲 される。」とある部分。論文は2013年に出されている。それから生息域が広がったのか、単にこちらでは未発見だったのか。これも温暖化の影響なのか。
深さについては、他の文献では100m〜300mというのもあり、釣っていた当日の水深は80m前後なので、ほぼ合致していると考えていいだろう。更に言えば時期的なものや場所的なもの、などもあるだろうし、混獲される程度のものなら書かれている深さはいずれも網を入れる深さの範囲というだけで、目安のようなもの。
テナガコウイカという種の可能性もあるようだが、自分の記憶による特徴からはウスベニコウイカではないかと思っている。写真を見る限りテナガコウイカは、ずんぐりした体型で足が太く胴に対するボリュームも大きい。甲も幅が広いように見える。そのほかウェブ上の写真では確認出来ないが「背側は紫褐色で全面に赤斑が粗らに散る」とあり色と模様が違うもののようだ。
「オフショア編その101」に「捌いてみるとボリュームが少ない」と書いたが、これもほっそりした体型のウスベニコウイカの特徴の現れではなかろうか。
釣り上げた直後に写真を撮らなかったことが悔やまれる。何せ「(先週に引き続き)またコウイカか」程度で珍しいと思わなかったので。